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嵐山光三郎『追悼の達人』

嵐山光三郎といえば、昔は「E気持ちなのでR」といった、「ABC文体」など軽薄な感じであった。
「素人庖丁記」という料理の本を出す頃からか、少し変わって、今は文人についての本を出したりもしている。
この本もそんな一冊で、640ページもの大部な文庫本である。
49人の作家を没年順に掲載。正岡子規から小林秀雄まで。
「生まれた順ではないから、長寿の作家はあとになる。明治、大正、昭和の作家を没年順にすると、また違った文学史が見えてくる」
そんな意気ごみで、当時の新聞雑誌を集めて、古雑誌でぜんそくを悪化させ、ダニにかまれながら書きあげた本だ。
 
追悼は、親しい仲ほど悪事を暴露する。疎遠な作家は当たり障りのないことを書く。
いくつか面白いことが載っていた。
芥川は風呂嫌いのため垢だらけで、におったという。手にも大小のしわが寄っていて、皺にも黒く垢がたまっていたという。
「金色夜叉」にはモデルがいて、御伽草子の巌谷小波だ。ただし、女を蹴倒したのは本人ではなく、作者の尾崎紅葉。
横光利一は実は家庭想いの人で「子供を持たない作家はだれのために書いているのだろうか」と言っていたらしい。小説の世界とまったく違う顔だ。
高村光太郎は鉄アレイでボディービルに励み、アメリカで喧嘩をしても勝つような人だった。
 
…などと、自分たちが文学史の教科書で見た写真や、作品とはまったく異なる様子が描かれている。
 
田山花袋の臨終の枕元にいた島崎藤村が「死んでいく時の気分はどういうものかね」と訊いたという、エピソード、これは自分も知っている。
花袋が「誰も知らない暗いとこへ行くのだから、なかなか単純な気持ちのものじゃない」と答えたという問答は藤村の冷徹で嫌味な性格をよく表していた。
ところが、古雑誌と格闘した作者は、本当は花袋のほうから話しだした、という事実をつかみ、このエピソードはでっち上げだとする。
この一点だけでも、この本が当時の新聞雑誌を丹念によんだ、興味本位の作品ではないとわかる。
作家の追悼とは、葬式に行くことではなく、故人の作品を書架から取り出して読む。
この追悼法は川端康成が主張したものだ。実際は川端は弔辞がうまく、盛んに葬儀に引っ張り出されたらしいが。
この追悼法は自分も実践している。
もし、嵐山がなくなったら、この本は分厚いから、彼の少年小説か青年小説でも読もうかな。
 
 
2011年4月15日読了
2011年1月初版 中公文庫
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コメント

No title

エッセイ沢山書いてた頃は、嵐山さんより椎名さんでしたね~。
「笑っていいとも」の編集長のイメージが強すぎて。。。

No title

口ヒゲのおじさんですよね~
私もいいともの人のイメージしかなくて(^^ゞ

でも、おチビが幼児時代によく見ていた「ピッキーとポッキー」の絵本が
この方の作だったので、ちょっとびっくりしたのを覚えています。

No title

ymppさま。
軽薄体と呼ばれた2人とも、立派な文豪ですね。
椎名は麻布の入試問題になったほどですから。

No title

AYAさま。
母はいいとも。娘は絵本で、立派な嵐山一家ですよ。
いろんな仕事をこなせる、多彩な才能。おチビちゃんにもそうなってほしいですね。

No title

アカタ川龍之介だったのですね。これから芥川賞をにするたび思い出すでしょうね。嵐山コーザブロー氏は国学院で国文学を選考されたとテレビで見たことがあります。

No title

オニ母さま。
はい、トロッコはフェリスの入試にも出たし各塾の教材に使われていますが、ちょっと子どもたちには伝えにくい内容ですね。
垢まみれていて持てたのですから、人間才能を持っているものが勝ちなのか、と。

No title

入試問題で思い出したことが・・・
「自分の歌詞が東北大の問題に出て使われたのに事後承諾だった事はちょっとむっとした」と発言した後「でも前もって言われてたら使われたよ~って漏洩しちゃうからだろうね」って。
誰だったかなぁ~~~さだまさし氏?
記事と関係ないコメントですみません・・・

No title

PS.今回はお酒の挿絵は無しですね。

No title

月灯小夜子さま。
入試問題だけは「事後承諾でよい」と著作権法でなっているようです。
入試問題が使われる歌詞となると、さだまさしなのかなあ。
井上陽水だと「なぜ傘が無いのか?」「なぜ涙は飾りじゃないのか?」と出題されても、答えが出ません。

No title

月灯小夜子さま。
よく覚えていただきありがとうございます。
そういえばなかったですね。

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王子の狐

Author:王子の狐
Yahoo!からの引っ越しです。
現在は東京・神奈川での飲み食いの記事中心。
昼は人形町、夜はあちこちに出没しています。

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